これでいいのか?
結婚し家族をもち、いつしか、
“空虚感”というものが
なくなった。
かつて親と同居していても、どこにいっても、何をしても
空虚感は埋めることはできなかった。
その胸のあたりの穴が、いまは消えてしまった。
あれはただの孤独だったのだろうか。
しかし、それとときを同じくして、
“叫び”も失われてきたような気がする。
あのころ、いつも心の中で“叫び声”を
あげていた・・・
「おれはなんなんだ?」
「どこにいけばいいのだ?」
「これでいいのか?」
「このまま死ねない」
・・・
言葉にはしなくても、“叫び”があった。
その“叫び”とともに、酒の入ったグラスを握り締めたまま
テーブルに打ちつけ、
手がすっぱり切れて血まみれになったことがあった。
あの鮮烈な血こそが、自分の“叫び”だったのかもしれない。
よかれあしかれ、そういう“叫び”が、“空虚感”が消え去るのと
比例して、フェイドアウトしてしまったような気がする。
いいのか、悪いのか、分からない。
ただ、そうしたものが心になくなった自分を、
鏡を見ないでイメージすると、
目がトロンとした、肩を落とした、中途半端に
年だけくった中年男になってしまう。
その男は決して、豊かで満ち足りた
生活をしているわけではないのに・・・
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