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July 01, 2008

冷酷

ぼくは中学生のあるときから、

まったく涙が出なくなってしまった。

そのとき以来、目の前の風景すべてに

白いもやがかかるようになった。

悲しいことがあっても、

悲しいと感じるのでなく、

ただかわいていて、苦しかった。

10年以上たって、

20代の終わりであったろうか、

妹の結婚式のとき

ようやく涙を取り戻せた。

なぜか泣けてしょうがなかった。

自分から、悲しみと

普通の景色を奪った者に

ぼくはひたすら仕え続けた。

その者が自分の涙を

奪ったのだとは知らずに、

懸命に愛そうと努めた。

その後、数十年たって

その者が死んだと聞いても

まったく涙は出なかった。

いまだに線香をあげに

行っていない。

おそろしいくらい

冷淡でいる自分がいる。

そんな自分を

かわいた苦しみで

見つめている自分がいる。

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