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March 22, 2009

何を選ぶか?~『呻吟語』抄録にみる編者の個性 ④

(前回よりのつづき)

                                                                                 

講談社学術文庫の『呻吟語』(絶版)を訳注した荒木見悟(※他の方同様、一連のこの記事では敬称略とさせていただいています)のプロフィールを見てみますと以下のようになっています。

1917年、広島県生まれ。九州大学文学部卒業。中国哲学専攻。九州大学教授を経て現在、九州大学名誉教授。主著は『仏教と儒教』『禅の語録17大慧書』『日本思想大系34貝原益軒・室鳩巣』『明代思想研究』『明末宗教思想研究』『禅の語録14輔教編』『陽明学の開展と仏教』など。

とありました。このプロフィールとアマゾンなどでその他の著作をみてみますと、儒教と仏教、とくに陽明学と仏教の比較をご専門にされているようにも思えます。公田連太郎も安岡正篤(豊田良平)も深沈厚重の文を『呻吟語』の思想の根幹をなしているとしているのに、その文を荒木見悟がのせてもいないのは、儒教の中だけにおさまらない仏教よりの視点があるなればこそではないかと考えたくなります。が、浅学菲才の小生にはよくはわかりません。

余談ですが、私は荒木見悟をまったく存じ上げていなかったのですが、図書館で『日本思想大系34貝原益軒・室鳩巣』を読んで、学者であるのにすごい文章を書く方もおられるのだと思ったのが初めでした。からだに突き刺さり、魂に響くような言霊を記憶しています。名前を見て、どこかで見たことがあるなと思い、「ああそうだ。うちにある『呻吟語』の訳者」だと気づいたときは嬉しかったです。

さっそく帰って、『呻吟語』を開いてみると、訳と解説ですから心に突き刺さるような言葉はほとんどなかったのですが、わかりやすく正確に訳出されているのだなという印象を受けました。前回の記事でも一文を載せましたが、訳文であるにもかかわらず訳文とは思えないようなすっきりとした、簡潔な文章で書かれています。おそらく『呻吟語』を自家薬籠中の物としていて、現代日本語に完全に練り直して書かれているのだと思います。だからわかりやすく、訳文であるにもかかわらずストンストンと腹に落ちてくるのでしょう。

                                                                                    

「深沈厚重」、何故その部分がないのか・・・に戻ります。ネットで検索するとあるサイトでは荒木見悟は陽明学の大家と出ています。小生のような学識がほとんどないようなものの知識ではとてもわかるようなことではないかもしれません。この方の著作も読んだのは『呻吟語』と『日本思想大系34貝原益軒・室鳩巣』の一部のみです。

ただ荒木見悟の『呻吟語』の巻末にある解説にはこう書かれています。

『呻吟語』は、以上のような立場から、呂坤が、政治的社会的諸問題から日常茶飯事に至るまでの憂慮・憤懣・内省・危惧・対策・信念を率直に披瀝したものであって、断片的な言葉の集積ながら、著者の人柄が如実ににじみ出ているとみられよう。その執筆動機は、著者の自序(万暦二十一年)にくわしい。

 呻吟とは病人のうめき声である。呻吟語は、病気にかかった時の痛みの言葉である。病中   の痛みは、病人だけが分かる。他人には分かってもらえない。その痛みは、病気の時だけ感じる。なおってしまうと、すぐに忘れてしまう。私は生まれつき体が弱くてよく病気にかかった。病んでいるとき、うめき声をあげると、その苦しさを記して自分で後悔し、気をつければ、二度と病気にかからないだろう、と思った。だが気をつけないために、また病気にかかり、また苦しみを書きつけた

こうして病んでは書き、書いては病んで三十年に及んだというのであるが、ここにいわれる病気とは、肉体的なものであるよりも、むしろ精神的なものであることはいうまでもなかろう。そして先にのべたような彼と陽明学派との対立にもみられる複雑多端な思想界の動向が、一層きびしく彼の省心傾向を深めたことであろう。(※傍線は私-筆者)

 このように、『呻吟語』の著者である呂新吾の内省的な面を強調しています。それは、同じく『呻吟語』巻末の解説で、まず初めに、呂新吾が自己の修養の手段として利用していた『省心紀』に注目していることでもわかります。

                                                                                 

                       (次回につづく)

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