楽しいばかりでなく厳しいも遺伝子のスイッチをONにする
最近は「楽しいこと」「嬉しいこと」ばかりがいいとされ、「困難に耐える」とか「刻苦勉励」とかそういうものは流行らないようだ。たしかに、かつての日本では「忍耐」「努力」「試練」「苦労」・・・といった「巨人の星」ばりの厳しさばかりに比重が置かれ、「楽しい」「おもしろい」「感動」・・・といったことはないがしろにされてきた。その反動であるかもしれないが、そればかりでいいのだろうかとよぎることがある。厳しさ、苦しみを乗り越えてこそ大きな喜び、感動がもたらされるということもある。
その点、遺伝子の権威、村上和雄教授はバランスがとれているところが共感がもてる。到知2007年6月号、千日回峰行を果たされた塩沼亮潤住職との対談より、村上教授の言葉を紹介します。
私は「心を変えたら遺伝子の働きが変わるか」という研究をやっていますが、人間の遺伝子というのは、働いているのは全体の5パーセントだけで、あとの九十五パーセントは眠っているんですね。楽しいことや嬉しいこと、笑いといったものが眠った遺伝子のスイッチをオンにすることはこれまでの研究である程度分かってきましたが、私は厳しいことでもスイッチはオンになるような気がします。
(中略)
塩沼さんのような凄まじい行とまではいきませんが、研究者にもいろいろな困難があったり、競争があったりします。自分でも不思議に思うような力を出せる時というのは、一つにはそういう厳しい状況に追い込まれた時だったように思いますね。
ぼくなんかでも、仕事をぎりぎりまで追い詰められて、思わぬアイデアが出たり、いい結果に行き着いた経験がある。さらに、村上教授は利他の心が大事だという。
それから利他の心が芽生えた時。最初は「何かを突きとめたい」とか「世界に先駆けてやってやる」という研究者の夢というか、野望で始めるんですよ。でもいつしか「この研究を成功させたら、高血圧で苦しんでいる人たちに喜んでもらえるかもしれない」とか、そういう利他の気持ちに変わってきて、その時にものすごい力を出せたと同時に、サムシング・グレート(人智を超えた偉大な存在)を感じました。
だから今日の日本のように暖衣飽食、自分が好きなだけ食べて好きなだけ寝るという環境は、遺伝子のスイッチが入らないのではないかと考えています。私はぜひそれを証明してみたいと思っているんです。(前掲の雑誌『到知』より)
「世のため人のためにあらゆる困難に耐え、刻苦勉励して志を遂げる」という昔からの日本人の生き方も、村上教授の理論からすると、遺伝子のスイッチをONにする生き方だったのだ。
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